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企業研修

コーチングを手掛けるうちに企業研修も任されるようになったという林健太郎さん。他業種での実務経験とコーチングスキルを活かした企業研修は、「参加者が部屋を出るときに何を言わせたいか」から計画が始まると言います。コンサルティングとは違い、一回勝負の多い企業研修。決められた時間の中で何か変化を起こしつつ、あとの人間関係にネガティブに響かせない、そんな職人技はどのようにして生まれたのでしょう。
(話し手… 合同会社ナンバーツー 林健太郎  聞き手… おおばやしあや)

※この記事を読むのにかかる時間…約15分

 

研修はサービス業の側面もあるので、まず面白おかしさが大事

――実は私、林さんの企業研修にアシスタント参加させていただいたことがあるんですが。歩いたり動いたり話させたり、画材のような小道具も使い盛りだくさんで、議論も盛り上がって面白かったですね。職人技というか、エンターテイメント性が高かったです。

そうしないと参加してくださった方々が飽きちゃうんですよね(笑)。面白おかしくやることは大事です。そもそも企業での研修の場合は、研修なんて参加したくない人達が集まることが多いんですから。メールが1日300通も来るのに、それを無視してなんでこんなものに参加しなくちゃいけないんだ、となる。

 

――当事者目線ですね。参加者から色々を引き出すのに、堅すぎない場を創ると。

そうなんですよ。研修に出ている一日で、普段だったらこなせる実務を完全にストップさせるわけですから、それなりの配慮が必要です。それを私が「今日はみなさんメールを見ないでください。会社が投資している大切なことですから、私の話を聴いて学んで明日から活かしてください。いいですね」なんて真剣に言ってしまうと、参加者としてはふざけんなって思うはずなんです。正論ではあるんですが、それを振りかざしてもポジティブな影響を生まない。

それを狙っているなら別にいいけれど、「なんか今日すごい面白そうだな」と思わせたいなら、「あはは、300通もメールが来るんですね、それはすごい!」なんて少し軽やかに向き合った方がうまくいくケースもある。研修はサービス業という側面がありますので、そこを満たさないと大きな変化や学びを起こすには至らないんです。

 

参加者が研修を終わって部屋を出るときに何をどんな風に言うか、から研修をデザインする

――きっとその場で色々起きるとは思うんですが。(チームビルディングでも)準備がほとんどだと仰っていましたが、それは研修でもすごくクリエイティブになさっていますよね。

そうなんですよね。準備~。準備に追われますね。コーチングは完全に即興でやるものなのですが、研修の場合は緻密に計画をしていきます。研修が終わって参加者が部屋を出る時に、どんな言葉を語りながら出ていってほしいかといった「言葉」を想定するところから始まりますね。それが「すごく面白かったね」という快い感情から出る言葉を想定するのか、「なんなんだあの不愉快な経験は」と違和感を醸成して学びの定着を狙うのか、「俺たち何かやれそうな気がするよ」と熱量を上げたいのか、そういうところをイメージして作っています。

 

――参加者が自分でも気づかないうちに、自然にそう思うようになっているよう作るということですね。

そうそう、そうです。それがプロですよね。

 

――なるほど。コーチングと企業研修も近いですし、コーチングとチームビルディングも近い。研修とチームビルディングは当然同系統である。今、3つの円が重なっているのが見えました。林さんが提供されている研修メニューにはどんなものがありますか?

リーダーシップ研修とコーチングスキル研修が多いですね。あとは、セールストレーニング研修とブランド研修といったものもあります。

 

――それはエグゼクティブ・コーチングなどをしている中で、研修もやってくれないかと頼まれたのが始まりでしょうか。

それもありますし、どこからか研修講師という名前で聞きつけてくる人もいます。セールストレーニングやブランド研修も、私はフェラーリ社の研修を長く請け負っていましたから、その評判を聞きつけてご依頼いただくこともあります。

 

――面白いですね。林さんご自身のほうから、こういうものを研修として提供しているという時には何がメインですか?

リーダーシップ研修が軸になりますね。それを応用していくと、コーチングスキル研修や、セールストレーニング、更にはブランドを意識した顧客対応などのコンテンツに派生していきます。

 

「ハイパフォーマー=良いリーダー」というわけではない。日本の管理職が抱える重荷を軽くしてくれる、林コーチのリーダーシップ研修

――ではそのリーダーシップ研修について教えてください。リーダーシップって色々なものがあると思うんですけど、林さんが伝えているものって何なんでしょう?

「ハイパフォーマー=良いリーダー」というわけではない、ということです。仕事ができる人が即ちいいリーダーであるとは限らない。これは日本だけでなく世界中で起きているんでしょうけど、マネージャー職への昇格っていきなり来るんですよね。「来期からマネージャーという役割だから。それで、あなたのチームメンバーはこの人とこの人とこの人で、売り上げ目標5倍だからよろしく」と、リーダーとしての研修もなく突然登板させられることが多い。すると大体「俺は自分で学んでここまできたわけだから、お前らも勝手にやれよ」なんて発言を部下にしてしまったりするんです。

そんな采配をしていると、数ヶ月のうちに問題・課題が噴出します。リーダーからすれば部下に対して「何で自分たちで主体的に責任持ってやれないの?」と感じたり、「人事部長勘弁してくださいよ、何で俺のチームはこんなにできない奴ばっかりなんですか」といった不満をぶつけたりする。

それに対して人事部や先輩たちからは「あなたがリーダーとしてちゃんとやれていないからダメなんだ」といった的を得ないフィードバックしかもらえず、本屋へ行ってリーダーシップの本を買い漁るようになるわけです。そして買った本に「リーダーは強くあれ」みたいなことが書いてあったとすると、それを状況も考えずに鵜呑みにするわけです。お前らあっちだ!これをしろ!みたいな営みをして、1年後には「どうにもならない」状態に陥る。

リーダーとしての教育をほとんど受けずにスタートするわけですから、こういう状況が起きるのも無理はないのですが、ビジネス的にはあまり猶予も与えられない。例えば、会社からは「1年で結果出してね」という命令が飛んでくる。そして、それができなければクビね、とか、減俸ね、といったアメとムチ状態で動くことを余儀なくされる。

リーダー自身も最初はチームメンバーと対話したりしながら真剣に取り組むんですけど、なかなか思うようにいかないから、最終的には部下にこんなことを伝えているような毎日になっていきます。「いいよその仕事やらなくて、大事なやつだから、俺がやるから、早く帰りな」…こうやって自分自身が色々抱えていくうちに、病んでしまうリーダーがいっぱいいるんです。

 

――今、そんな社会派ドラマの筋書きが見えました。多分、今の日本の雇用慣行がカバーできていない部分を、管理職の人々が引き受けてしまっているわけですよね。そこをなんとかしようというのが林さんのリーダーシップ研修だと。

そうです。昔だったら、飲みに行けば良かったんです。今で言うブラック企業がやらせるようなきつい仕事を日中やらせて、いいから働けだのなんだの言って、脅しつつ何の意味もないような仕事をやらせて、夜は「俺の若い頃はな」と言いながら飲ませて、「お前も頑張れよな」って言えば済んだんですけど。今それができないので、業務時間内に相手を鼓舞させるスキルというのが必要になってくるわけです。

 

自分たちが考える「いいリーダー」と、周りが自分たちに対して持つ「いいリーダー像」を対比させてみる

――お酒の場で励ますのではなくて、業務時間内に相手を鼓舞させるスキル。なるほど。今みなさん、限られた時間の中で色々なことをしなくてはいけなくて、辛い思いをしている方も多いと思うんですけど。例えばもし私がそのリーダーシップ研修をチラッと覗いたら、そこではどんなことが行われているんですか?

私がオリジナルでやっているものだと、「いいリーダーってどんなリーダーだろう?」というのを、まず一緒に定義していきます。リーダーという言葉に対してあまりに世の中の定義が甘いので、リーダーって何の仕事?優れたリーダーの特徴は何?と聞いた時に、10人いたらまず10人違うことを言います。そうすると、定義すら合っていないということが分かり、では私たちの職場で言ういいリーダーというのを決めようね、そうしないと物差しがないので、「君はいいリーダーなの?」「うん僕はいいリーダーだよ」というふうにはならないですよね。

その自分たちの考えるリーダーの定義の中で、自分のパフォーマンスは100点なの、0点なの、というのを見たいので、まずはそこからスタートです。…そうなんですが、でも実際は人と働いているわけじゃないですか。だとすると、私たちが言うには、リーダーってこういう役割で、こういう仕事だよねと定義したけれども、ところで周りの人はその定義に納得するの?というのはぜひ対比させておきたいところです。

色々なステークホルダーの視点が大事で、例えば部下はこう思っているかもしれない。例えばうちの筆頭株主のお嬢さんから見たときにリーダーに期待することはまったく異なるかもしれない、うちの会社の広告に出ているタレントさんはまた違う期待値を持っているかもしれない、という風に想像することができるかどうかなんですよね。色々なステークホルダーの視点からそれらを対比させたときに、私たちが定めたリーダーの定義や役割は合っているんだろうか?と改めて考えることができる。「そうか、人から求められているものと、自分がやらなくてはと思っていることは違うよね」という目が養われるので。だとすると、私たちがやらなくてはいけないことは何だろうね?という議論になるわけです。

 

セールスがどういう振る舞いをするかでお客様のブランド体験が全く変わる。そういう意味でも、セールスは社の象徴でありリーダー

――なるほど、自分たちからの視点と他の人の目からの視点でいいリーダー像を考えてみる。すごくわかりやすいですね。ちなみに、リーダーシップの考えにコーチングが関わるというのはわかるんですけど、セールストレーニングやブランド研修はどのように関係してくるんでしょう?

セールスにかかわる人たちは、要するに誰もがリーダーなんですよね。会社の中でも一番のフロントを走るという意味でリーダーであり、お客様をそのブランド体験に引き入れるためのリーダーでもある。対お客様での接点としてのリーダーという意味では、一人ひとりがどういう振る舞いをするかによってブランドイメージそのものが全く異なるものになる。「私は頑張っています」という指標では不十分で、お客様から何を求められているのかを想定できることであったり、それはお客様100人いたら100人同じなのか?という疑問を持つことは、先ほどのリーダーシップ研修とそんなに変わりません。

 

――視点を変えて、自分に何が求められているのかを考えるということですね、なるほど。フェラーリならば、フェラーリを買う時にお客様は自分(セールス)に何を求めているんだろうかと。

同じプロセスなわけですね。優れたセールスってどういうセールス?と聞いたときに、セールスも100人いたら100人違うことを言うわけです。まずはその物差しを合わせようよ、という話で。で、その物差しがあったとしたら、それは本当に有効なの?一緒にほかの視点から考えようよ、ということですね。

 

いいから黙ってやれ、の時代は終わった。「納得して行動する」というプロセスは、相手がお客様でも部下でも同じ

――なるほど、そうだったんですね。セールスという言葉の字面を見たときに、どうやって売るかの研修なのかと思ったんですが、そういう本質的なことを考える場ということですね。

たしかに。お客様に売るという行為は、お客様側から見れば、何かに納得して行動を起こすということなんですね。これは上司部下の関係にも当てはめられます。上司が仕事をやらせるという行為は、部下が納得してその仕事に着手するというプロセスとほぼ変わらないわけですよ。セールス活動とリーダーシップは似ています。セールスとしてお客様にやっていることを、あなたの部下にもやらなくてはけない、それがリーダーシップだったりしますよね。ブランディングも同じで、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)を考えた時に、企業側が何を売りたいのかという話ではなく、お客様の視点からものごとを感じて、欲しい価値を提供していくことが大切です。そういった意味で、様々な研修の軸にある考え方はリーダーシップ研修と同じなんですよね。

 

――なるほど、違う視点から離れてみるのはコーチング的ですね。そういう発想力をつけさせる研修なんですね。

そうそう、それが大事なんです。EQ(こころの知能指数)みたいな話ですけど、相手の身になって考えてみる力。「いいから黙ってやれ」の時代ではないんですよね、もう。

 

――お客様も部下も、どうやったら気持ちよく行動してくれるか?と。

はい、あるいはセールスだったら、うちにはこういう商品があって値段はこれです、これは他社製品に比べてこういう特長でこういった点が優れているんです~と説明すれば売れた時代はもう過ぎているので。キャリアパスで言うと、君はこういう働き方をすればこんな給料が得られて、こういう感じで家が買えるよ、いいクルマにも乗れるよ、と説明しても、部下は動かない時代ですよね。今はもっと違う働きかけが必要です。

 

――林さんが痛手を受けたバブルの時代というのが終わって。いっぱい作って売ればいいとか、この会社は名前が大きいからここから買うみたいなものではないですよね。ストーリー性とか…やっぱりそれは本当の意味で「ブランド」というものに通じてくると思うのですが。

そうですね、少しリーダーの救いになる言葉で言うと、相手が全面的にモチベーションを上げて協力してくれるような状況を必ずしも作る必要はないということなんです。リーダーが部下に期待しがちなのは、「100%こっちに来い!」という全面服従的なモチベーションアップなんですが、それは現実的ではない。「ちょっとだけ力を貸してくれる部下」を作る方が現実的です。

例えば、林さんという上司がいたときに、部下が「林さん忙しそうだから、今日は5分ぐらい残業して手伝ってもいいかな」と。それくらいでいいんですよね。ほんの片足突っ込むか半歩くらいの協力を得るような話で。あの人に言われたらちょっと断れないなあ~くらいのモチベーションの上げ方でいいわけです。そうやって、例えば5分使ってくれる部下が10人いれば、50分相当の仕事が1日に加算されるんですよね。それくらいのモチベーションの上げ方でいいんです。

 

今現在苦しんでいるリーダーに、肩の荷を楽に、相手の立場に立てる視点の持ち方を持ってほしい

――それは、肩の荷が下りますよね。100%じゃないといけないと思っていた人にとっては。

それがOKだと、「お前気合いが足りないんだよ!何考えて仕事してるんだよ!」みたいなことにはならないですよね。「ちょっと力貸して?」くらいの柔らかさになるかもしれない。

 

――なるほど、すごくいいですね、林さんご自身、過去に商業主義というものに疲れて、うつに罹ってしまったご経験もあると思うのですけど。そういう、同じようなことに苦しむリーダーや部下を支えられる、救ってあげられるようなリーダーシップの考え方なのかなと思います。

したいですね、本当に、それができたらいいですよね。DELIC(※註:デリック、林さん主催のビジネスリーダーのためのコーチングの学校)もまさにそんな意図かなと思います。

 

――素敵な話題振りをありがとうございます。それではそのDELICさんのことをお聞きしたいので、企業研修についてはこれでおしまいとさせていただきますね。林さんに研修を依頼されている社長さんの詳しいインタビューも、良かったらご覧ください。ありがとうございました。

ありがとうございました。

 

企業から信頼を受ける林さんのコーチング、チームビルディング、そして研修

 

◆話し手…林健太郎
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ
一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部 創設者
2010年にコーチとして独立して以後、ビジネスリーダー250人に対して2000時間を超えるコーチングを実施。企業向けの研修講師としても活躍し、年間の登壇回数は100回近くにのぼる。
人が変化する瞬間に立ち会い続ける中で、「人が変わるためには何が必要で、実際に変わる瞬間に何が起こるのか」という見識に裏打ちされた、コミュニケーションメソッドを確立。国際コーチ連盟の依頼で出演した動画の再生回数は50万回を超え、海外からの引き合いも増えている。
【取引実績】アストラゼネカ、HSBC、エスティーローダー、武田薬品工業、トライバルメディアハウス、LIXIL、フィリップモリスジャパン、フェラーリジャパン、ヒューレットパッカード 他多数

◆聞き手…おおばやしあや
SAI Japan / ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー代表、フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。人の真の多様性を活かし「はたらく人のwell-being実践」と「組織の発展」の両方をコミュニケ―ション活性から促進させることを目指し、コミュニケーションカードツール開発のほかwell-being(より良く生きる)や本質的な内容の研修を企業、医療機関、大学、行政などに提供。命の大切さを伝えるFMラジオ番組の進行役も務める。